BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「わかりやすさ」を疑え』

2024/11/01 09:00

週刊BCN 2024年10月28日vol.2035掲載

敵・味方を分ける言葉に気をつけろ

 「本当に頭のいい人は、難しいことでもわかりやすく説明できる人」という意見がしばしば見られる。新しいテクノロジーに関する記事を書くとき、その分野の技術者やマーケターが好んで用いる用語や表現を借りてくれば、一通り文章は仕上げることができる。しかし、それでは記事を理解できるのは一部の人に限られてしまう。前提知識のない人にもそのテクノロジーの価値が伝わるよう、複雑な背景を解きほぐし、平易な言葉で表現すべく、頭をひねる。確かに、難しいことを難しいまま伝えるより、わかりやすく説明できる人のほうが頭を使っているし、優れた能力を持ってるかのように見える。

 しかし、私たちの生きる社会は本来それほど「わかりやすく」はないものだ。ワイドショーのコメンテーターやSNS上の論客は、わが国が抱える問題の原因を短くわかりやすく提示し、それらを引用したコメントには多くの賛同が寄せられる。しかし、わかりやすい説明の中には、自分と異なる意見を持つ集団を敵と決めつけるものも少なくない。本書の著者は、いったん感情にあおられて「○○憎し」となってしまった言説は、正論による訂正が困難になると指摘する。わかりやすい言葉を見たとき、何が省略されているのか考える必要がある。(螺)
 


『「わかりやすさ」を疑え』
飯田浩司 著
SBクリエイティブ 刊 1045円(税込)
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