BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「叱れば人は育つ」は幻想』

2024/08/16 09:00

週刊BCN 2024年08月12日vol.2026掲載

脳のメカニズムが影響

 幼い頃や学生のとき、そして社会人になった最初の頃は、悪いことをしたり、ミスをしたりすると叱られていた。振り返ってみると、自分に非があるケースが大半だったが、中には理不尽に叱られていたなと思う場面もあった。

 本書は、臨床心理士・公認心理師として長年活躍してきた著者が「叱る」をテーマにまとめた一冊だ。著者によると人間には「よくないことをした人間を罰したい」という欲求が脳のメカニズムに備わっており、叱ることで快感や充実感を得られるため、結果、(叱ることに)依存するようになるとしている。最近、社会問題になっているインターネット上の誹謗中傷もこの欲求を満たすための行為だという。反対に叱られた側は、「防御モード」に入り、言うことを聞いたり、謝罪の言葉を述べたりして、ひとまず危機から逃避するための行動を取っているだけで、叱る行為には効果がないと結論付けている。

 本書は、著者が元中学校校長をはじめ大学教授、元スポーツ選手、経営者の四人と対談しており、それぞれの実体験などから叱る側と叱られる側の両方について細かく考察している。読後はコミュニケーションのあり方を考えさせられた。(帆)
 


『「叱れば人は育つ」は幻想』
村中直人 著
PHP研究所 刊 1243円(税込)
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