▼ある自動車企業のトップの発言を紹介した新聞記事が「切り取り」と指摘されたことに関連し、SNS上でメディア側の人間が「切り取った結果として失言になるような発言をすべきでなかった」「メディアの前で話すとは本来そういうこと」と投稿していた。個人的な思いだが、この態度は明確に否定したい。

▼確かにメディアは取材対象の発言をすべて掲載できない。紙幅や時間の都合があるからだ。また、そもそも人は会話の中で、常に筋道を立てて話しているわけでもない。横道にそれたり、後で補ったりしながら、伝えたいことを語る。

▼仮にメディアに「切り取り」があるとすれば、発言者の脱線を修正し、言葉を補い、趣旨を読者や視聴者によりわかりやすくするためだ。一つの発言に異なる文意・文脈を被せるためではないだろう。

▼Webを通じて誰もが発信できるようになり、媒介役のメディアが真に必要なのか常に問われている。情報を取捨選択し、わかりやすく、正しく届ける。権力批判もメディアの仕事ではあるが、本質的な役割を忘れてはいけない。そうでなければ、本当にAIに代わられる職種になりかねない。（無）