▼休日に訪れた観光施設で土産物を見ていたら、ある売り場にだけ、注意書きの紙が何枚も張り出されていた。書かれていたのは「撮影禁止」「ビデオ通話禁止」「長時間滞在禁止」といった内容で、加えて「従業員へ威圧的言動を行った場合は退店をお願いする」という穏やかでない文言もあった。

▼そこは、近年海外で人気となった銘柄の酒を取り扱う売り場だった。アジアの富裕層の間で珍重されるようになった酒が、産地では手頃な価格で手に入る。スマートフォンのチャットツールなどで国内外からの注文を受けて代理購入する“個人事業者”がこの円安で後を絶たず、大口の販売を断ると店員に大きな声で抗議などをするため、手を焼いているのだという。

▼近年の国内の株高は円安を追い風とする輸出産業がけん引しており、安い円は日本経済を支えている側面もある。しかし、エネルギーや日用品など家計に直結する領域では幅広い商品の値上げが続いており、個人消費の弱さは悪化を続けている。当面、この状況は変わりそうにない。土産物店で目の当たりにしたような市場のひずみに触れる機会が、今後ますます増える予感がする。（螺）