BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『組織不正はいつも正しい』

2024/06/14 09:00

週刊BCN 2024年06月10日vol.2017掲載

「正しさ」は複数あり、流動的である

 不正会計や虚偽品質などの組織的な「不正」には明確な悪意があるケースが意外に少ないと本書では指摘する。経営者や幹部、従業員が「正しい」と思う範囲で行動した結果、組織的な不正につながる構図が多いという。「正しさ」は一つではなく、流動的であることが十分理解されていない点を問題視する。

 例えば、東芝の不正会計は、経営陣は「会社存続のため」、従業員は「グレーゾーンだが不正とは言えない」範囲で会計処理をしたことで結果的に利益の水増しと判断された。スルガ銀行の不正融資もメガバンクや地方銀行との競争に勝つため過度な業績目標を掲げ、「目標達成=正しさ」に転化したことで、パワハラもいとわない暴走状態になったと分析している。

 経営陣が社員にハッパをかけることは珍しいことではないものの、がんばる範囲や正しさの範囲は時代とともに変化し、流動的であることを肝に銘じなければならない。「昭和でまかり通ったことが令和では通用しない」ことなどは山のようにあり、現代のSNSの拡散力も相まって社会問題に発展しやすい。「正しさ」を常に疑い、多様性ある経営体制や外部監査、権限の委譲を通じて「正しさ」を相対化する仕組みづくりの大切さを説いている。(寶)
 


『組織不正はいつも正しい』
中原 翔 著
光文社 刊 924円(税込)
  • 1