BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『大学教授こそこそ日記』

2024/01/12 09:00

週刊BCN 2024年01月01日vol.1997掲載

甘美な肩書きの現実を赤裸々に

 企業人にとって、大学教授というのは甘美な響きを含む肩書きだ。収入は安定しており、講義や研究の成果を著作にすれば印税で本務以上の稼ぎも期待できる。研究に没頭しつつ、授業やゼミでは自身を「先生」とあがめる若者をあるべく道へと導く満足感も得られるのではないか。今は経営者や会社勤めの身だが、セカンドステージとして大学の先生を夢見る人は少なくないだろう。

 しかし、もちろん大学はこんな“甘いだけの世界”ではない。それをリアルな表現で教えてくれるのが、大学教授が仮名で記した本書である。収入について言えば、民間企業時代に比べ大幅ダウンとなる可能性は高い。期待の印税も、実際には出版費用は著者の「持ち出し」で、出せば出すほど赤字が膨らむ。授業は半ばノルマのように割り当てられ、やる気がみじんもない学生との対峙や、コピペレポートの採点に疲弊。研究の時間など満足に確保できない。単位を不可とした学生の保護者が乗り込んできたこともあったという。

 そもそも少子化で、大学という組織の経営自体に暗雲が垂れ込む現代である。学生たちの人生の記憶の中に、わずかながら自分の存在を残せることだけが大学教員のやりがいとなる。それでも学術の発展のため、身を削る覚悟があるだろうか。(螺)
 


『大学教授こそこそ日記』
多井 学 著
フォレスト出版 刊 1430円(税込)
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