▼「デジタルは見えすぎる」。十数年前に受けた映像ドキュメンタリーの制作講座で、講師が話していたことを今でも覚えている。デジタル撮影は精細であるがゆえに、見えなくていい部分までも視聴者に伝えてしまうという。性能に優れていても、必ずしも表現や視聴体験に有利になるわけではないようだ。

▼最近では若者を中心にフィルム写真が流行していると聞く。スマートフォンのカメラが高画質化を続ける一方で、フィルムの色味や粒子感、柔らかさなどが「エモい」と受け止められているそうだ。デジタルの利点から離れたところに生まれる魅力があるのかもしれない。

▼企業を取材していると、ビジネスの現場も常にデジタルとアナログの間で揺れ動いていると感じる。デジタルによる効率化が進む中で、アナログでしか得られないものがあると多くの人は語る。ただ、それを裏付けるデータが明確には見つけられないのもアナログであるがゆえだ。

▼記者自身も、取材はなるべく対面で行いたいという気持ちがある。オンラインでは得られない情報が確かにある、と言えば聞こえはいいが、単に「仕事をした」感触がほしいだけなのかもしれない。（無）