▼本紙主催セミナーの運営のため、5月に福岡市への出張があった。開催翌日は休日だったので、市内から少し足を延ばし、それまで訪ねたことのなかった太宰府へ行ってみることにした。

▼奈良・平安時代における最大の地方行政機関だった太宰府だが、平城京や平安京とは異なり、現在にも残る遺構はそれほど多くない。最大の歴史的遺産は中央庁舎にあたる「政庁」の跡だが、その場所には芝生が敷かれ、史跡と知らなければ普通の公園のように見える。しかし、建物のない大きな空間がただそこに広がっていることで、かえって想像力がかきたてられ、往事の威容を感じられる思いがした。

▼菅原道真を祭る太宰府天満宮へも足を運んだ。本殿の大改修が始まり、いま参拝客を迎えるのは3年間限定の「仮殿」である。鉄骨造の現代的な建物で、屋根の上に多数の草木が植えられる斬新な設計を採用した。少し離れて仮殿を眺めると、周囲の森と一体化したように見えて、完成したばかりなのに荘厳な印象を与えている。

▼そこにないことで逆に存在感が際立ち、新しいデザインが自然との豊かな調和を導く。逆説的な見え方が、貴いものの価値をさらに高めてくれた気がする。（螺）