▼東京・新宿の地下街を歩いていると、通路の壁が不自然にくぼんでいる場所があり、そこに置かれていた台のようなものに腰掛けながら携帯電話で話をしている若者の姿が目に入った。よく見ると、それはかつて公衆電話が置かれていたところのようだ。若者はこのスペースが何のために存在していたのか、知りもしないのかもしれない。

▼米ニューヨークでは、今年5月に市内最後の公衆電話が撤去されたという。公衆電話はもはや、博物館に飾られる存在になりつつある。国内でも本年度から総務省が定める設置基準が緩和され、ＮＴＴ東西は撤去を加速する方針だ。代わりに、公共施設や大型のオフィスビルなどに臨時で開設する「災害時用公衆電話」の整備を進めている。

▼しかし、7月に発生したＫＤＤＩの大規模な通信障害は、災害以外でも、ある日突然、通信手段が絶たれ得る現実を社会に突きつけた。このような事態はビジネスにも大きな影響を与えるが、それ以上に、消防や警察への通報ができなければ私たちの生命にとって重大なリスクとなる。公衆電話の場所はＮＴＴ東西のＷｅｂサイトで確認できる。自宅や勤務先の最寄りを調べておくべきだろう。（螺）