BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『王道ブルース』

2022/07/08 09:00

週刊BCN 2022年07月04日vol.1929掲載

虚実の狭間に生まれるドラマ

 プロレスとは極めて「あいまい」な存在である。競技か興業か、リアルかファンタジーか、現実か虚構か。プロレスに馴染みのない人にとってはなかなか理解しがたいものであろうが、個人的には、プロレスは虚実の狭間に生まれる「人間ドラマ」を楽しむものだと受け止めている。
 

 たとえ、筋書きがあったとしても(もちろん、本当にあるかどうかは知る由もないが)、レスラー個人は架空のキャラクターではない。彼ら、彼女らには血が通い、一人一人に感情がある。筋書きでは描ききれない、人間としてのレスラーが見せる喜怒哀楽にファンは心を動かされている。

 本書は、2022年秋に50周年を迎える老舗団体の全日本プロレスで、48年にわたってリングに立ち続けている著者が、レスラー人生を振り返りながら、ジャイアント馬場をはじめとする名レスラーたちとの思い出や過去の出来事の秘話をつづっている。そこに描かれているレスラーたちは、やはりキャラクターではない。喜び、悩み、苦しみ、懸命にもがき続ける人間である。

 生きることは戦い続けること。それはレスラーも一般人も変わらないのかもしれない。読み終えて、そんな思いが心に浮かんだ。(無)


『王道ブルース』
渕 正信 著
徳間書店 刊 1980円(税込)
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