▼毎年、季節の変わり目に冬物の衣類をクリーニングに出していた。しかし、近所の店が春に閉店してしまい、機を逸したまま梅雨となり、あっという間に夏を迎えてしまった。さすがにこのままではまずいと一念発起し、スマートフォンで近所の店を探してみた。

▼いくつかの店の中で、口コミや電話番号、営業時間などの情報がない店を見つけた。営業しているかどうかも分からなかったが、気になったので行ってみると、高齢の女性が店番をしていた。

▼コロナ禍でデジタル化の重要性が叫ばれており、ブームと言っても過言ではない状況だ。だが、店はデジタルとは無縁の空間だった。衣類を仕分けた後、女性が引き出しから取り出したのはそろばん。慣れた手つきでぱちぱちと玉を弾き、料金を素早く正確に示してくれた。

▼昨年9月に発足したデジタル庁は「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」の実現を目指している。社会全体ではデジタル化は必要だろうが、中には必要としていない人もいる。優しさに焦点を当てるのであれば、デジタル一辺倒になるのではなく、デジタルとアナログが融合した世界がちょうどいいのかもしれない。（鰹）