BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争』
2020/10/23 09:00
週刊BCN 2020年10月19日vol.1846掲載
素直に喜べない「値下げ」の動き
「携帯大手の携帯料金は、今よりも4割程度引き下げる余地がある」菅義偉首相は官房長官時代の2018年8月、このように発言し、携帯電話料金値下げに取り組む意向を鮮明にした。今や携帯電話代は家族で毎月万単位の支出となっており、大げさに言えば可処分所得の減少と同じような効果を家計にもたらしている。その携帯電話代が安くなるならば、国民としては万々歳のはずである。だが、この官邸主導の値下げ論はどうも素直に飲み込めないところがある。携帯電話料金は2004年に自由化されている。政府がすべきは政策による競争環境の整備であって、料金は競争の結果下がるべきものだ。民間企業の事業活動に介入するのはやり過ぎではないか。過去10年以上にわたって、政府は携帯市場の競争促進のためさまざまな施策を打ってきたが、当たったのはMVNOの奨励くらいで、むしろ業界に官製不況をもたらしたと指摘されている。これまでの政策の検証が先ではないか。
本書はこのような疑問に答えるべく、通信業界専門記者の著者が、先の菅発言の裏側に何があり、その後携帯大手三社がどう動いたかを詳らかに描いている。官邸と携帯大手の3年にわたる攻防を経ても、依然として値下がりが実感できないのはなぜなのか。そして、首相に就任してからも携帯料金にこだわる菅氏が次に打ってくる手は何か。通信市場の複雑さを解きほぐし、あるべき競争の姿を知るための手がかりになるだろう。(螺)
『官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争』
堀越 功 著
日経BP 刊(1980円)
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