BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『ナチスが恐れた義足の女スパイ 伝説の諜報部員ヴァージニア・ホール』
2020/09/04 09:00
週刊BCN 2020年08月31日vol.1839掲載
歴史の裏側にスパイあり
主人公は、米国や英国のスパイとして、第二次世界大戦の最前線で活動したヴァージニア・ホール。5カ国語を操り、時にはジャーナリストなどに身分を偽っていた。映画の設定のようだが、内容はすべて実話だ。ヴァージニアは、もともとスパイを志望していたわけではなかったが、ある人物との出会いが運命を変えた。表紙や巻末には、幼少期からのヴァージニアの写真が掲載されている。人目を引いたという美貌に加え、片足は義足。いかに目立たないようにするかが求められるスパイの姿には見えなかったのが正直な印象だ。
破壊や攻撃、脱走などを後押しし、ヴァージニアは「第二次世界大戦を勝利に導いた」と紹介されている。しかし、決して順風満帆ではなかった。「些細な失敗が感情の爆発を引き起こすほどの重圧」「心臓は激しく鼓動していた」など、極限の状態で任務に当たっていたことは随所で感じられ、各章ともに読みごたえがある。
スパイとして活動することは、常に危険と隣り合わせになる。しかも活動場所は戦場だ。敵対する組織にスパイであることが知られたら、苛烈極まりない拷問を受けるかもしれないし、自分や仲間の命が奪われるかもしれない。
それでも、ヴァージニアは任務を続けた。1982年7月に76歳で亡くなり、すでに38年。歴史の舞台の裏側で、スパイとして何を思っていたのかを聞くことはもうできない。(鰹)
『ナチスが恐れた義足の女スパイ
伝説の諜報部員ヴァージニア・ホール』
ソニア・パーネル 著/並木均 訳
中央公論新社 刊(2700円+税)
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