BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『デジタル円 日銀が暗号通貨を発行する日』

2020/08/21 09:00

週刊BCN 2020年08月10日vol.1837掲載

お金のデジタル化で何が変わるか

 キャッシュレス後進国のレッテルを貼られていた日本でも、ICカードやQRコードは珍しい決済手段ではなくなった。一見すると、お金のデジタル化が大きく進展したように見えるが、これらはあくまで決済サービスであり、各サービスに対応した店舗でなければ支払いには使えないし、残高を銀行に預けられるわけでもない。われわれが長年親しんできたお金=銀行券とはまったく異なるものだ。

 これに対して、中央銀行自らが発行するデジタル通貨で銀行券を代替するとともに、新たな金融サービスの創出を図ろうとする動きが諸外国の一部で盛んになっている。日本銀行は今のところ公式には「デジタル通貨を発行する計画はない」としているが、デジタル通貨の時代に向けた具体的な調査・研究も行っている。「世界に先駆けて」とならないところが本邦らしいが、世界の動向を追う形で将来的に“デジタル円”が発行される可能性は高い。

 本書ではデジタル通貨の検討で先行する中国やスウェーデンなどの例に触れながら、デジタル通貨時代の金融システムのあり方を展望する。安全に価値を貯蔵できるデジタルツールが生まれれば、超低金利の今、わざわざ預金口座に銀行券を預ける必要性は薄まる。またデジタル円の時代には、日銀が個人と直接取引する可能性すら生まれる。やや専門的で易しい解説とは言えない本書だが、お金のデジタル化で世界がどう変わるかを考えるのは頭の体操としても有意義に思える。(螺)
 


『デジタル円 日銀が暗号通貨を発行する日』
井上哲也 著
日本経済新聞出版 刊(2400円+税)
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