BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>ポスト米国を担う国は出てこない

2016/11/02 15:27

週刊BCN 2016年10月24日vol.1650掲載

ポスト米国を担う国は出てこない

 情報を制する国家が、覇権(ヘゲモニー)を獲得する。インターネットの普及期に、情報活用の重要性を正当化するためによく用いられた説明だ。歴史を振り返ると、本能寺の変が起きた後の豊臣秀吉の動き、関ヶ原の戦いで勝利した徳川家康など、戦国時代でさえ覇権は情報戦だったと説明することができる。

 もっとさかのぼると、人類は言葉を得てから情報を伝達できるようになり、文字の登場によって情報を蓄積できるようになった。そして、17世紀にオランダで活版印刷が発明されたことで、文字による情報伝達のスピードが飛躍的に向上する。オランダが世界で最初の情報を制したことによる覇権国家となる。19世紀には英国で電信、20世紀には米国で電話が登場し、覇権国家のバトンが渡されていく。電話の次は、インターネットの登場となる。

 本書では、活版印刷の登場からインターネットが普及した現在までの500年について、情報の視点で覇権国家という帝国の興亡を紹介する。ポイントは、インターネットでは中核がないということ。もはや覇権国家は登場しないというわけだ。巨大な政治力をもつ国家があったとしても、カオスな情報化社会を制することは難しいとしている。

 本書は国家の視点で書かれているため、情報化社会の覇権を握ろうとしている巨大IT企業には触れていない。情報の分析についても活版印刷の延長線上にあり、IoTを活用する新たな情報戦についても触れていない。あくまでも、文字を中心とした情報活用による覇権国家の歴史を学ぶ書である。(亭)

『〈情報〉帝国の興亡』
玉木俊明 著
講談社 刊(760円+税)
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