BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『あれか、これか』

2016/07/07 15:27

週刊BCN 2016年07月04日vol.1635掲載

現金の呪縛を解くファイナンス理論

 老後に備えてしっかり預金をする。節約に節約を重ねて、増えていく預金通帳の金額を見てほくそえむ。頑張って働き、十分な退職金も手にして「これだけの現金があれば老後は心配ない」と思っていたが、想定外の出費が重なってしまう。減り始めた現金は薄情だ。あっという間に底をつくことになる。

 現金に困らない老後を過ごし、遺族に十分な資産を残していく人も多いだろう。ただ、平均的な会社員では巨額の資産を築くのが難しいうえ、国民年金の行く先も不透明なだけに、老後に不安を覚える人も多いに違いない。

 社会情勢を考慮すると、老後の不安は致し方ないところ。ただ、不安の根源が現金にあるのなら、考え方を改めるべきなのかもしれない。

 著者は指摘する。「現金は『最も価値の低い資産』の一つ」であると。もちろん、お金で買えない価値があることを主張しているわけではない。道徳的・倫理的な話は抜きにして、現金に価値を認めないのである。

 理由は簡単だ。現金そのものは、現金を生まないため。銀行に預ければ多少は増えるが、超低金利時代ゆえ、現金を生むレベルにない。

 「モノの価値は、それが生み出すお金(キャッシュフロー)の量によって決まる」。ファイナンス理論のポイントはここにある。これが理解できれば、「老後に備えてしっかり預金をする」という考え方が変わるかもしれない。ちなみに、この世で最も稼ぐ力をもっている資産は、「モノ」でも「カネ」でもなく、「ヒト」なのだそうだ。健康第一である。(亭)

『あれか、これか』
野口真人 著
ダイヤモンド社 刊(1600円+税)
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