BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『沖縄現代史』

2015/11/26 15:27

週刊BCN 2015年11月23日vol.1605掲載

「オール沖縄」の真の姿

 米軍普天間基地の辺野古移設で揺れる沖縄。われわれは毎日のニュースでその映像を目にし、解説を耳にする。そして考える。これまで政府がぶれ、県もぶれ、真の民意がどこにあるのかもわからない状況が今日の事態を招いている。保守と革新というわかりやすい構図が意味をもたず、「オール沖縄」という表現が一人歩きする。これは真実を伝えているのか。そんな疑問をもつ人にお薦めしたいのが本書だ。著者は極めてニュートラルな視点から、「沖縄の現状を理解するための歴史的前提を、立体的に浮かび上がらせる」ことに成功している。

 太平洋戦争の沖縄戦では、当時の沖縄の人口の四分の一にあたる約15万人が亡くなった。「県民に遺族でない者はいない」といわれるほどの犠牲者を出しながら、戦後すぐに海外からの引揚げ者と日本本土からの移住者で人口が激増した。新旧の人々は、沖縄戦の記憶を共有することで一つにまとまっていく。米軍統治時代は、多数の政党がしのぎを削り、保守・革新を問わず、本土復帰なのか、時期尚早であるのか、議論が始まる。そのなかから独立論も出てきた。本土復帰後は、県民による知事の選択が道筋を決めていく。いわゆる基地経済からの脱却は、実は成功しつつある。「オール沖縄」は、沖縄県が日本の一員であることを前提に、日米同盟の重要性を認めながら、合理性のない不必要な基地の整理・縮小を求めているのだ。

 歴史をたどらなければ、真実がみえてこない事象がある。いまの沖縄は、まさにその対象だ。(叢虎)


『沖縄現代史』
櫻澤 誠 著
中央公論新社 刊(920円+税)
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