業界の把握とキャリアパスの作成に

　一人前のITエンジニアになるには時間がかかる。最新技術のキャッチアップが簡単だとしても、ITエンジニアに求められる知識やスキルはそれだけではない。顧客のニーズを把握するための知識やマネジメントの手法など、一人前になるために必要な知識やスキルは、むしろ技術情報以外にある。そこで時間がかかる。IT業界で人材不足が課題となっているのも、人材育成にかかる時間が要因の一つである。

　本書は、ITエンジニアが知るべきIT業界をまじめに紹介している。アイデア一つで一攫千金という、ITベンチャーに抱きがちな派手なイメージではなく、キャリアを積むことの難しさを含め、現実的なITエンジニアの世界を知ることができる。

　本書で“次世代ITエンジニア”と紹介している職種は、ビッグデータを活用する「フィールドアナリスト」、新しいサービスを企画する「ITサービスデザイナ」など、次世代かどうかはともかく、現時点で必要なITエンジニア像であることに間違いはない。ITエンジニアがキャリアパスを考えるにあたって、大いに参考になる。“次世代ITエンジニア”から現在の業界動向も把握できる。

　本書で残念なのは、表紙の帯（腰巻）で「次世代の“ジョブズ”を目指すためのガチな方法」と、情報処理推進機構（IPA）イノベーション人材センターの片岡晃センター長が紹介しているところ。あくまでもITエンジニア向けで、“ジョブズ”を目指す若者の期待に応える内容とは思えない。（亭）


『スゴ腕のITエンジニアになる』
武藤祐一郎　著
TAC出版 刊（1600円＋税）