BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『マーケティングの嘘』

2015/01/29 15:27

週刊BCN 2015年01月26日vol.1564掲載

トレンドを決定づける親子パワー

 定量調査にもとづいた従来のマーケティングに「嘘」が潜んでいるということを、著者たちが1980年代から取り組んできた「生活日記調査(生活カレンダー)」によって明らかにすること、それが本書の眼目だ。書籍のタイトルは煽情的なものほどうけるので「嘘」を使っているのだろうが、正確には「わな」だろう。定量調査の限界──あいまいな言葉の定義による不正確な回答/回答者の嘘/仮説創造に不向き──を知り、マーケティングを誤った方向に導かないための基礎の基礎を、世代分析の成果から具体的に説いていく。

 タイトルにある「団塊シニア」は、現在65~68歳のいわゆる団塊の世代、「子育てママ」はその子どもたちの団塊ジュニア世代を指す。どちらも出生数が多く、消費の大きなトレンドを決定づけるパワーをもつ世代だ。調査対象者に一週間ぶんの日記をつけてもらい、生活動線や心理。そこに現れる商品(道具)などを分析して、さまざまな生活シーンの生活者(消費者)像を捉える「生活日記調査」によってわかったこの親子世代の実像は、非常に興味深い。和食の伝統を守っているのが実は子育てママたちだったり、団塊シニアたちがよく歩くのは健康維持のためではなかったり、自家用車の役割が大きく変化していたり、生活の変容と道具の進化が密接に結びついていることがこの定性調査から明らかになっていく。

 「東京移民」や「ジモティ」「ポストマタニティ」「小鍋仕立て」「ひとり文化」など、辻中氏お得意のネーミング作戦は本書でも健在。理解の深化を助ける役割を果たしている。(叢虎)


『マーケティングの嘘』
団塊シニアと子育てママの真実
辻中俊樹・櫻井光行 著
新潮社 刊(700円+税)
  • 1