BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『地方交通を救え!再生請負人・小嶋光信の処方箋』
2015/01/08 15:27
週刊BCN 2015年01月05日vol.1561掲載
高齢化社会のインフラを考える
過度の規制緩和は業界を疲弊させ、そのつけは最終的に国民に回る。その典型が、地方交通だ。2000年3月に施行された改正鉄道事業法で廃線が届け出制になった結果、地元の同意なしで多くの地方路線が廃線になった。また、バスとタクシーも免許制から許可制へ移行したことで供給過剰に陥り、労働条件の悪化や安全対策の軽視を招いている。岡山県で運輸・観光関連を中心に事業を展開する両備グループの総帥、小嶋光信氏は、こうした規制緩和が招いた地方交通の危機を救う活動を続けている。例えば、「ウルトラ駅長」の「たま」がいることで知られる和歌山電鐵。廃線の危機にあった南海電気鉄道貴志川線を、小嶋氏は、インフラを行政が手あてする「公設民営」、事業運営は「100%民間資本」そして、事業者と地域による「運営委員会」という原則を適用し、再生に導いた。地方の公共交通は、高齢化になり、クルマを運転できなくなった住民の生命線。先進諸国でそれを完全に民間に任せてしまったのは日本だけだという。民間は費用対効果で動く。2013年に起きたTOBによる西武鉄道5路線の廃線危機は、結果として路線は残ったとはいえ、この論理が最も露骨に現れたできごとだった。「公設民営」は、この状況を救うビジネスモデルなのだ。
昨年11月、政府は交通政策基本法案を閣議決定した。法案は、国際競争力の向上や災害対策、観光立国に加えて、地方の公共交通の維持確保をうたっている。本書には、法案策定に尽力した小嶋氏の発想、つまりこれからの日本を考えるうえで欠かすことのできないアイデアが詰まっている。(叢虎)
『地方交通を救え!再生請負人・小嶋光信の処方箋』
小嶋光信・森 彰英 著
交通新聞社 刊(800円+税)
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