BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『たったひとつの真実なんてないメディアは何を伝えているのか』
2014/12/11 15:27
週刊BCN 2014年12月08日vol.1558掲載
ものごとを多面的に捉える大切さ
情報が氾濫する時代。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など、20世紀のマスメディアは、爆発的な情報量を双方向で発信するインターネットが登場したことで、相対的な地位は下落しているが、それでもメディアとして一定の情報伝播力はもち続けている。情報の信頼性という側面では、ネットを介した情報に対しては眉に唾しても、新聞・テレビのニュースは疑問を抱かずにそのまま受け入れている人は多い。本書の主題は、その「メディアの伝える情報を批判的に判断・活用し、それを通じてコミュニケーションを行う能力」(広辞苑)、すなわちメディア・リテラシーの重要性にある。著者は、地下鉄サリン事件の3年後、1998年に当時のオウム真理教の信者たちを撮った自主制作ドキュメンタリー『A』を制作・公開したことで知られる。これまでの制作・著作活動のなかで実際に体験してきたことをもとに、メディアが伝える情報をうのみにする危険性を説く。「世界は一面ではない。視点によってくるくる変わる」のだ。いわく、「メディアは要約する」「メディアは情報を加工する」「メディアは本質的な矛盾を抱えている」「メディアは怖い」。そんなふうに書かれると、「じゃあ、何を信用すればいいの」と思うが、著者は「情報を知るためのツール」としてのメディアの存在を認めたうえで、メディアの弊害から逃れるためには、ものごとを多面的に、さまざまな視点から捉えることが大切だという。若年層向けに書かれたちくまプリマー新書の一冊だが、改めてこの時代を生きるために必要な能力とは何か、深く考えさせられる。(叢虎)
『たったひとつの真実なんてないメディアは何を伝えているのか』
森 達也 著
筑摩書房 刊(820円+税)
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