BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『宇宙の果てはどうなっているのか?謎の古代天体ヒミコに挑む』
2014/11/20 15:27
週刊BCN 2014年11月17日vol.1555掲載
ヒミコをテキストに天文学の今を説く
2005~07年、米ハワイ島にある国立天文台の大型光学赤外線望遠鏡「すばる」で行った観測で、著者は130億光年の先に、質量が太陽の数百億倍、直径が5万5000光年というとてつもなく大きく、明るい不思議な銀河を発見した。著者によって「ヒミコ」と名づけられたこの銀河は、138億年と考えられている宇宙の歴史の初期にできたもので、これまでわかっている同じ頃にできた銀河に比べ、大きさ、明るさともに10倍ほどという常識外れの存在だった。その異質ぶりから偽天体ではないかと疑い、一度は観測対象から外した著者だったが、「すばる」の隣に立つW・M・ケック天文台で分光観測を行った結果、まさしく130億年前にできた銀河であることが証明された。「ヒミコ」の研究は、宇宙の謎を解き明かす大きなきっかけになると期待されている。本書の読みどころは、発見に至るドラマチックな経緯や、現在までの研究の成果だけではない。宇宙の歴史や天文学の歩み、望遠鏡の世界、そして実際の観測がどのように行われているのかをていねいに説明しているので、「ヒミコ」の研究が何をもたらすのかがすんなりと頭に入る。新聞の解説記事よりもはるかにわかりやすく、この部分だけでも一読の価値はある。さらに、「地球にいながら、宇宙の全体像を理解しようとする」という、ちょっと浮世離れした学問に取り組む天文学者たちの仕事ぶりが描かれていることも興味深い。学者同士のつばぜり合いや望遠鏡を使うための提案書の争いなど、現場の生々しい様子が伝わってくる。楽しみながら天文学の今を学ぶことができる好著だ。(叢虎)
『宇宙の果てはどうなっているのか?謎の古代天体ヒミコに挑む』
大内 正己 著
宝島社 刊(1300円+税)
- 1