BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『歴史家が見る現代世界』
2014/06/12 15:27
週刊BCN 2014年06月09日vol.1533掲載
世界の人々が共有しうる歴史
歴史学者である著者が、世界の現代史を考える手引きとして、すべての人々が共有しうる歴史を学ぶ姿勢を説いた一冊。「国とは地理(境界)と歴史(過去観)を共有する人たちの集合体」だから、「世界に複数の国家が存在する限り、自国中心の歴史観は避けることができないのかも知れない」。しかし、「国家の歴史と世界の歴史(あるいは人類の歴史)とは同じではない」。そして、とくに強大国の関係を主に取り上げてきた歴史研究は、1980年代末期で終わり、以後はインターナショナル(国家間)ではなく、国境を越えたグローバル、トランスナショナルのつながりに注目する段階に入ったという。近代には個人にとって大切だった家族や地域社会、職業、学校などのつながり(帰属)は、現代に入って国家という絶対的に大きな単位で括られるに至った。こうして築かれた近代国家は、やがてグローバリゼーションの波にさらされ、経済面で地球全体をつないだが、政治面ではさまざまなタイプの国家を生んだ。さらに、国家以外の社会的集団や個人を生んでいく。国家を軸にした伝統的な国際関係の概念は、もはや通用しない時代に入っている、と著者は書く。
本書は、グローバルな枠組みのなかで現代の世界をとらえ、ナショナルよりもグローバルな動き、国籍よりは地球人としての意識がつくる視点に立ち、世界の人々が共通に理解しうる現代の歴史を探ることを目的としている。いわばグローバル史観だ。世界の国家が押し並べて内向きになりつつあるいまの世界に、この一冊が投じられた意義は大きい。(叢虎)
『歴史家が見る現代世界』
入江 昭 著
講談社 刊(800円+税)
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