BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『世界「比較貧困学」入門』
2014/05/15 15:27
週刊BCN 2014年05月05日vol.1529掲載
浮かび上がる日本の貧困
タイトルだけをみて「貧乏比べをしてどうする」と思ったが、これは大きな誤解だった。本書は、筆者の労を多とすべき見事な比較文化論である。OECD(経済協力開発機構)の発表によれば、日本は世界第3位の“貧困大国”だという。格差社会が取りざたされているとはいえ、法制度の下に一定のセーフティネットが存在する日本が世界のワースト3に入るとは、どういうことだろうか。貧困の度合いを測る物差しには、人間が生きていくのに必要なものを入手できない「一日1.25ドル以下での暮らし」を指す絶対貧困と、一世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割った数値が全人口の中央値の半分未満の世帯員を指す相対貧困がある。日本は物価が高いので前者は参考にならないが、後者は具体的にいうと単身所得が150万円以下の人になるという。世界を見渡すと、絶対貧困者は6人に1人。実は日本の相対貧困者も同じ6人に1人で、これはイスラエル、アメリカに次ぐ相対貧困率だ。
本書は、「住居」「路上生活」「教育」「労働」「結婚」「犯罪」「食事」「病と死」の8分野について、発展途上国の絶対貧困と日本の相対貧困をデータとフィールドワークを組み合わせて比較し、日本の貧困の実態を浮かび上がらせている。明らかになる姿は、人間同士のつながりの途絶だ。家族の分断や希望のない仕事からの離脱など、コミュニティから離れることで人は孤独になり、その先に貧困が待っている。豊かであるはずの日本がいま直面する社会問題を浮き彫りにする好著。(叢虎)
『世界「比較貧困学」入門』
石井光太 著
PHP研究所 刊(780円+税)
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