BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『フォト・ドキュメンタリー人間の尊厳』──いま、この世界の片隅で

2014/04/10 15:27

週刊BCN 2014年04月07日vol.1525掲載

心の距離を縮めた写真の力

 平穏に暮らしている女性が突如拉致され、強引に結婚させられてしまう「誘拐結婚」が多発する中央アジアのキルギス。古くからある風習だとする説と、近年の誘拐結婚は断じて伝統などではないとする論とがあるが、現地のNGOによれば、事実として既婚女性の30~40%が誘拐で結婚しているという。

 フォトジャーナリストの筆者は、昨年9月、フォトジャーナリズムの祭典、ビザ・プール・リマージュの報道写真企画部門で、この誘拐結婚をテーマにした組写真でビザ・ドール(金賞)を受賞した。約4か月半の取材の間に25組の夫婦を撮影・取材。誘拐の現場にも出くわした。状況の記録に徹しようとしながらも、意に染まぬ結婚を嘆く女性たちに手を差し延べたりもした。被写体との“心の距離”を縮めながら撮影した写真は、実に6000枚に及ぶ。

 本書は、筆者がフォトジャーナリストとしてのキャリアをスタートしたガンビア共和国の日刊新聞『The Point』での活動から、このキルギスに至るまでの取材の記録だ。内戦直後のリベリアで苦難の生活を送る難民たち、母子感染によってHIVに感染したカンボジアの少年、女性が顔に硫酸をかけられる事件が頻発するパキスタンでの被害者たち、そして東日本大震災直後の岩手・宮城・福島──。現場で当事者たちと言葉を交わし、ときには生活を共にしながら人間と事象への理解を深めていく。「社会の片隅で生きる人々の物語を写真で伝えたい」という筆者の思いがひしひしと伝わってくる好著である。(叢虎)


『フォト・ドキュメンタリー人間の尊厳』──いま、この世界の片隅で
林 典子 著
岩波書店 刊(1040円+税)
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