▼IT産業の黎明期から30年以上が経過し、世代交代が進んでいる。産業の立ち上げに貢献してこられた方々が、第一線から退いた話や、訃報に接する機会が増えた。

▼『週刊BCN』の編集委員を務めた石井成樹さんが、1月27日、息を引き取った。石井さんは、「相手の口を開かせる方法を教える」と、駆け出しの記者をたびたび取材に連れ出した。取材活動は、オフィスで学び、マニュアルに沿って動けばいいというわけではないだけに、先輩の情報の取り方を体感することは、何ものにも代えがたい教材で、現場で学んだことがたくさんあった。桜井正光氏がリコーの社長だった頃の2003年、インタビューでIT事業に経営資源を集中投下する方針を聞き出したやり方は、強引でありながらも、今思うと巧妙で、記者にとっての貴重な財産になっている。昨日のことのように頭に浮かぶ。

▼経験を積んだ者が、その知見を次の世代に授ける。世代を越えて伝承していかなければならないものを、すべての企業や人は、必ずもっている。故人が自分に伝えてくれた、たくさんの教えを思い出しながら、そう感じている。（鈎）