BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『読書脳』

2014/01/16 15:27

週刊BCN 2014年01月13日vol.1513掲載

知の巨人が説く知の未来

 複数の書き手が交代で執筆する『週刊文春』の名物連載「私の読書日記」。立花隆はこのコーナーを21年間担当し、これをまとめた著書は本書で4冊目になる。著者自身が店頭でカゴに入れてきた書籍は極めて幅広い領域にわたり、まさに著者の「知を俯瞰する」執筆活動と重なる非常に興味深いものだが、今回、本書を取り上げた理由はそれだけではない。巻頭に置かれた東京大学図書館の石田英敬副館長との対談「読書の未来」が、ITを基盤にした人間の知や、それを支える書籍とメディアの過去・現在・未来をコンパクトにまとめていて、非常に示唆に富む内容になっているのだ。

 二人が描く「知の未来」は、長らく人間の文化の中核にあった本を読むという行為の意義が、情報革命の進行とともに自明ではなくなってきたという認識から始まる。そして、普及しつつある電子書籍は、読みながらほかのことがしたくなるようなシャロー・リーディング(浅い読み)に向いているが、深くじっくり読むディープ・リーディングには紙の書籍がいいとして、電子書籍は紙の書籍を“殺す”存在ではないとする。一方で、書籍のデジタル化はディープ・リーディングを必要とする書籍でも着実に進み、これを活用する「ソーシャル・リーディング」や「デジタル・キュレーター」など、新たな試みを紹介する。あらゆるコンテンツがデジタル化され、最初はバラバラだった情報が、インターネットによって再編集・構造化されつつあるいま、このネットの世界にトップダウンで秩序をもたらすのが書物であるとする石田副館長の結論には感じ入った。(叢虎)

『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』
立花隆 著
文藝春秋 刊(1600円+税)
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