BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『パラレルな知性』

2013/11/07 15:27

週刊BCN 2013年11月04日vol.1504掲載

「専門家」のあり方を問う

 ここ10年ほど、さまざまな媒体に書かれた著者の文章を一つのテーマの下に編んだ一冊。「パラレル」という言葉が指しているのは、自己理解と他者理解、ことに専門家の知識と非専門家の知識のギャップを埋めるために、専門家がもつべき知性と想像力のことだ。いわく、「専門知」はそれが適用される現場で、いつでも棚上げして、場合によっては別の判断を優先させる用意がなければならない。専門家は、専門知を非専門家に正しく理解してもらえるよう、想像力を駆使して共通の言葉で語り、その知で社会全体に寄与しなければならない──。

 2011年の東日本大震災以降に書かれた文章では、その主張がいっそう具体的になる。福島第一原発事故で、市民が専門家──政治・企業・研究者──に抱いていた信頼は崩壊した。それは、専門家たちが、その知性を自分の利益のために使っていることが明らかになってしまったからだ。

 他者理解の方法は、著者が説き続けている「価値の遠近法」に行き着く。人はものごとを考えるとき、「失ってはならぬもの」「あってもいいけれど、なくてもいいもの」「なくてもいいもの」「あってはならないもの」に分けることで、自分の価値観を客観視できるというものだ。これを他人のそれと比べることが、他者への理解とコミュニケーションのきっかけになる。哲学者として非常に広いフィールドをもつ著者だが、あらためてその主義主張の首尾一貫ぶりと説得力に驚かされた。熟読玩味に値する一冊。(叢虎)


『パラレルな知性』
鷲田清一 著
晶文社 刊(1700円+税)
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