旅の蜃気楼
伊勢神宮で古代の人々に想いを馳せる
2013/08/23 15:38
▼毎年、夏休みには山に入っているのですが、今年は東京から出たり入ったりしていました。8月10日には伊勢へ向かい、11日に念願の『お白石持(おしらいしもち)行事』に参加しました。お白石持は伊勢神宮、略して神宮が20年ごとに神殿を建て替える『式年遷宮』の行事に先立って行われます。神宮はお社が2か所あります。内宮、外宮です。お白石持は内宮、外宮ともに神域内の最も奥にある御正殿脇まで、手のひらでつかめる大きさの白い石を持ち運び、そっと置いて奥の扉から通り抜ける行事です。
▼それだけなのですが、神域内に入ることができるのは20年に1回しかないという貴重な体験になります。これまで46年にわたって神宮にお参りしているのですが、お白石持への参加は今回初めて。楽しみにして出かけました。暑い日差しの下で行われるまったりした行事ですが、神域内ではじわっと感動しました。削りたての総檜の御正殿は金色に輝いていました。これ以上書き込むと、何だかありがた味が薄れそうなので、これで終わり。ケチですよね。
▼『式年遷宮』は、略して単に遷宮といいます。今回の遷宮は62回目ですから古くから行われています。遷宮の行事は内宮は10月2日、外宮は10月5日です。夜の8時に行事が始まります。御祭神は内宮は天照大御神、外宮は豊受大神です。それらの神は御正殿に「おわします」といいますが、現在の住まいから新しい住まいである御正殿に遷宮するということです。
▼伊勢神宮の祭り事(神事)は夜に行われる行事が多い。それは厳粛であり、夜空に輝く星を見て暦を読み込むからです。動かぬ星である北極星の周辺を常に回っている北斗七星の形を見て、暦を読み、稲作の時期を判断する。当時の稲作は命がけですよね。今の気象庁の役目でしょうね。そうそう、暦に関するおもしろい本が少し前に出版されました。冲方丁著『天地明察』です。
▼神宮の仕組み、今でいうビジネスモデルは、知れば知るほど古代の人たちの知恵に感心させられます。山に入る時に磁石と地図は必携です。磁石のない時代には星座で航海します。陸上移動も同じでしょう。夜空の星は方位と同時に季節や気候が読む暦ですよね。こうした知識は学生時代の神職課程で得ました。
▼今年4月に、BCNの会長に就任しました。これを機に、伊勢に出向く時間を増やします。伊勢には内宮、外宮を中心に神宮関連のお社が125社あります。これらのお社を夜空の星を見つめながら歩き、古代の人の知恵に触れてみます。何を考えるのか、自分でも楽しみです。神宮に関して長い文章になりました。このほか夏休みには映画を観ました。『風立ちぬ』『終戦のエンペラー』『少年H』です。終戦関連のテーマで暑さ凌ぎもあって、一日1本、じっくり観ました。銀座が好きなので、有楽町駅周辺の映画館で涼を味わいました。それぞれに感動し、涙も溢れました。まったくまぎれもないジジイですね。
▼夏休みが終わったとたん、突然、全速力で走っています。大塚商会の大塚実さんに会って、御年91歳の大人(たいじん)から“お言葉”をいただいたのと、佐々木紀彦著『5年後、メディアは稼げるか』という混迷するメディア企業にとっての虎の巻といえる本を読んで、心が桜島状態なのです。
(BCN会長・奥田喜久男)
- 1