今日のひとことWeb版
「知の共有」に尽力した富田倫生さんを偲ぶ
2013/08/21 15:26
富田さんは、パソコン・IT産業の黎明期から取材活動に入り、1984年に代表作『パソコン創世記(第一部)』を執筆。Windows 95が発売される11年も前に、コンピュータとインターネットの大衆化が社会に与える影響を力強く書いています。
取材・執筆活動を進めながら、力を尽くしたのが「知の共有」でした。著作権保護期間を終えた書籍をデジタル化し、無料で公開する青空文庫の設立に貢献。著作権保護期間を著作者の死後50年から70年に延長する動きに強く反対し、多くの人が無料で知識を得られる仕組みづくりに尽力されました。30代で肝炎を発症してから約30年間、病魔と闘いながら、「伝えること」「広めること」に命の炎を燃やしたのです。
富田さんには、体調が悪化する直前までの約10年間、『週刊BCN』の寄稿欄「視点」で筆を執っていただきました。青空文庫の発展に専念するために断筆を決めた2007年には、主幹との対談にも応じていただきました。そのときの言葉をいくつかご紹介します。
「(青空文庫は)社会に根づいた、電子アーカイブという名の公有作品の樹です。電子的な環境が今後ますます整って、この樹からさまざまな方向に枝が伸びて、いろいろなかたちで果実をもぎ取れるようになってほしい。こうした樹を社会に育てる最初の段階で、ボランティアの身軽さで、その価値を実証してみせることが、青空文庫の役割じゃないかと思います」
「著作権制度の目的は、著作者の権利を守ることではありません。著作権法に『文化の発展に寄与すること』だとはっきり書いてある。権利と利用のバランスを取って、文化が発展しやすい環境をつくる」
「青空のぬくもりや気持ちのよさは、誰でもタダで味わえる。そんなふうに、読みたいと思ったとき、ふと青空を見上げれば、そこに本が開かれる環境をつくりたい。そんな思いで青空文庫と名づけました」
富田さんが残してくれた「知の共有」の考え方と仕組みは、いまや青空文庫だけでなく、IT技術とツールを利用することで多くの人がさまざまなかたちで実現しています。数十年前にそれを考案していた富田さんの先見性、信念、やり抜く情熱を、『週刊BCN』の記事で皆さまに伝えることができればと思います。
富田さんのご冥福を謹んでお祈りします。(木村剛士)
【記事はこちら】
文化の根幹をなすのは「知の共有」だ――青空文庫創始者の富田倫生さんと対談(2007年)
<前編>
<後編>
【関連記事はこちら】
<人ありて我あり~IT産業とBCNの昨日、今日、明日~>
青空文庫をはじめた富田倫生さん(2006年)
<『週刊BCN』連載「視点」、富田倫生さんの主な執筆記事>
「近代デジタルライブラリ」(2002年)
「電子本新時代がやってきた」(2003年)
「青空文庫7年目の成果」(2004年)
「私の終わりを公の始まりに」(2005年)
「著作権保護期間の延長は理をもって語れ」(2006年)
「青空文庫が消える日」(2007年)
「素晴らしき哉、人生!」(2008年)
【関連リンク】
青空文庫
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