BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『すごい人のすごい話』

2013/06/06 15:27

週刊BCN 2013年06月03日vol.1483掲載

 みずほ総合研究所の会報誌『Fole』に連載されていた対談企画「万物に叡智あり」を書籍にまとめた一冊。聞き手は、博物学者であり小説家であり、またタレントとしても活躍する荒俣宏だ。登場する15人の「すごい人」は、いずれも各分野で個性的な成果を上げている碩学たちで、荒俣が直接会って話を聞きたかった人たちばかり。その人選にも、荒俣の自然科学にとどまることのない縦横無尽の好奇心がいかんなく発揮されている。

 大阪大学の板見智教授が語る発毛剤とガンとの関係や、荒俣の「ハゲは自然が出家させてくれているのだ」という諦念、「日本語がある限り、演歌は不滅」と断言する文化人類学者の船曳建夫、『渋滞学』で一世を風靡した東京大学の西成活裕教授のからだを張った渋滞解消活動などは、ふだん何気なくやり過ごしていることどもが、視点を変えるとこんなにも奥深くなることを教えてくれる。

 個人的に興味深かったのは、北海道大学の高田礼人教授によるウイルス学講座、脚本家・早坂暁が語る故郷四国のお遍路さんたちの姿。

 『Fole』での企画が終了したのは2009年12月で、それから3年半がたっている。この間、日本は東日本大震災と原発事故というこれまでの価値観を揺るがすできごとに遭遇した。にもかかわらず、本書で交わされる会話の中身がいささかも色あせていないのは、それだけものごとの本質に迫った論が展開されていた証だ。3年半の間に、対談相手はさらに成果を上げているはず。それを追いかけるだけの力を与えてくれる希望の書だ。(叢虎)


『すごい人のすごい話』
荒俣 宏 著
イースト・プレス 刊(1600円+税)
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