BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『経営センスの論理』

2013/05/23 15:27

週刊BCN 2013年05月20日vol.1481掲載

 市場競争で勝ち残る企業には、すぐれた戦略がある。では、それをつくるために必要な能力とは何か。外国語でのコミュニケーション能力や財務諸表の読み方などの「スキル」ではない。これらはアナリシス(分析)能力であって、必要ではあるかも知れないがそれだけでは十分ではない。すぐれた戦略をつくる経営者であるためには、シンセシス(総合)能力である「センス」が必要だ。しかし「センス」は極めて言語化しにくく、数値化もしにくい能力だ。数多くのすぐれた戦略ストーリーを読み解き、その本質を見破ることの繰り返しによって磨いていくしかない。本書はこの論理に従って「すぐれたストーリー」のとば口を提示し、「センス」の中味を解き明かす。

 著者は「センス」のよい経営者がもつ資質について、成功事例から仮説を立てていく。例えば、ものごとの好き嫌いを明確にすること。自ら現場に出て仕事をこなす「ハンズオン」の領域と、部下に任せる「ハンズオフ」の領域を明確に分けること。これまでの延長線上にある「進歩」ではなく、非連続のなかから生まれる「イノベーション」に成功の本質があること。しかし、非連続のなかの連続にも目を向ける必要があること──。こうして、「経営」「グローバル」「日本」「よい会社」が語られていく。

 著者は一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。そのいかめしい肩書とは裏腹に、ときに「極私的」エピソードを交えながら、エッセイ風に話を紡ぐ。そして気楽に語るぶん、トーンは熱気を帯びている。終章の「知識の質は論理にある」は、けだし名言。(叢虎)


『経営センスの論理』
楠木 建 著
新潮社 刊(740円+税)
  • 1

関連記事

<BOOK REVIEW>『日本企業にいま大切なこと』

<BOOK REVIEW>『日本型「無私」の経営力 震災復興に挑む七つの現場』