BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『男の気くばり』

2013/02/28 15:27

週刊BCN 2013年02月25日vol.1470掲載

 推理小説作家の森村誠一が気くばりの本? ちょっと意外な気がしたが、氏が文壇にデビューする前はホテルマンだったことに思い至って、納得した。

 「気くばりというと、エチケットとかマナーといった形式的な振る舞いだけを連想する向きも多いと思うが、実はもっと根源的で重要な能力のひとつなのである」と書かれているように、この本は、類書とは趣を異にする仕上がりとなっている。

 現代人の間で、気くばりが薄れているのは何故かという問題提起から始まる。いちばんの大きな要因は、物質文明の飛躍的な発展にあるとみる。例えば、駅の自動改札や指紋認証などは、切符や指紋が正しいかどうかを正確・迅速に見分けるが、他の人間的要素はまったく信用しない仕組みといえる。つまり、世の中が人間不信システムに転換したというわけである。

 しかし、こんな時代だからこそ、気くばりが相手の心に響く。ここで興味深い提言がなされている。相手に応じた「気くばりの予算」を設定すべきというのがそれだ。「気くばりは、やりすぎてもいけない。過剰な気くばりは、うっとうしいものになりかねないからである」。予算設定にあたっては、自分ができる範囲で、なおかつ相手に負担感を与えないようにすることが大切だとアドバイスする。

 家族・親戚・友人、会社や職場などに相手を区分して、自らの経験を交えながら、人間関係を円滑にするための気くばりの仕方を指南してくれる。(仁多)


『男の気くばり』
森村誠一 著
KKベストセラーズ 刊(762円+税)
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