BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『世界から猫が消えたなら』
2012/12/20 15:27
週刊BCN 2012年12月17日vol.1461掲載
著者は、東宝で『電車男』『悪人』『モテキ』『宇宙兄弟』など、多くのヒット作を手がけてきた気鋭の映画プロデューサー。意外にも、初めての著作だという。文体はポップ、展開も速いので何やらライトノベルの雰囲気も漂うが、いやいやどうして構成は緻密だ。『創世記』を逆さまにしたようにこの世から一つずつ消えていくのは、「僕」の周囲に必然として存在してきたものばかり。それは亡くなった母との絆の象徴であったり、遠い存在になりかけていた父の記憶だったりする。結末に向けてどきどきさせるカウントダウンの仕かけはなくても、切なさがそれを補う。忙しく立ち働くお父さんたちに、ぜひ読んでほしい。ほろりとしながらも、きっと元気になる。
もちろん、映画のギミックはそこかしこに散りばめられている。まったくテイストの異なる小説だけれど、映画への愛情溢れる扱いは、セオドア ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』を思い起こさせる。
そして、装幀は鈴木成一デザイン室。たまたまなのだけれど、この1か月で同じ装幀者による書籍を3冊手にした。こちらも人気。カバーを外して持って歩きたくなる愛おしいデザインだ。(叢虎)
『世界から猫が消えたなら』
川村 元気 著
マガジンハウス 刊(1400円+税)
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