BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『ゼロからトースターを作ってみた』

2012/11/08 15:27

週刊BCN 2012年11月05日vol.1455掲載

 タイトルそのままの内容である。「トースター」とは、パンが焼けるとポンッと飛び出してくる極めて原始的なアレ。「ゼロ」とは文字通り原材料、つまり鉱石や原油から、という意味だ。一個人の手で、シンプルではあるが一応は工業製品であるトースターを作る──。そんなことができるのか、という疑問に、本書は製作過程を克明に追いかけながら答えを出している。

 著者は、イギリス王立芸術大学大学院の卒業制作として、このプロジェクトに取り組んだ。まずは実際にトースターを分解して、何からできているのかを調べることから始めた。その結果、大きく骨格をかたちづくる「鉄」、断熱材の「マイカ」、発熱体の「ニッケル・クロム合金」、電線の「銅」、そしてボディを覆う「プラスチック」があればできるという結論に達し、そして、産業革命以前に存在した道具を使うというルールを自らに課して製作に取りかかる。ここからの試行錯誤が、本書の白眉だ。鉱山に行って鉄鉱石を手に入れ、冶金学を学び、ちょっとズルして精錬。マイカはスコットランドで採掘、ニッケル・クロム合金は銅とニッケルに置き換えて、銅山の水とカナダの記念硬貨で間に合わせる。プラスチックは原油が手に入らず、バイオプラスチックに挑戦して挫折……。

 製作の過程で突き当たる困難に代替案を出しながら、そして同時にものづくりの深さを味わいながら、著者は環境をはじめとする社会コストと消費、リサイクルについて、考察を深めていく。さて、できあがったトースターの姿は……表紙でお確かめください。(叢虎)


『ゼロからトースターを作ってみた』
トーマス・トウェイツ 著
飛鳥新社 刊(1400円+税)
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