BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『聞く力――心をひらく35のヒント』

2012/07/26 15:27

週刊BCN 2012年07月23日vol.1441掲載

 週刊文春の読者なら、「阿川佐和子の この人に会いたい」というインタビューシリーズをご存じだろう。多彩なゲストを招いて、その人物像を浮かび上がらせる業にはさすが! と思わせるものがある。もちろん、プロのライターが読ませる文章を構成するわけだが、元のインタビューがおもしろくなければ、いくら手を入れたところで読者の興味を引きようがない。

手本は城山三郎

 では、阿川佐和子はインタビュアーとして天性の資質をもっていたのか。どうもそうではないようだ。著書の冒頭で、「私はずっと、インタビューが苦手でした。正直なところ、今でも決して得意だとは思っていません」と告白している。

 そんな彼女が、週刊文春のインタビューシリーズをこわごわと引き受けるにあたって、ふと思い出したのが、かつて面談した作家・城山三郎とのやりとりだった。初対面の挨拶を終えて、「ご本、とても面白かったです」と話の口火を切ったら、城山氏に「そう? どこが?」と聞かれた。インタビュアーの阿川は、的外れなことは言えないなと緊張しながら、一生懸命に答えた。すると、「そう。あとは?」と問われる。それでまた、「最後のエピソードが好きでした。(略)」。城山氏は、「いい読者だねえ」とニコニコ顔。その笑顔が見たくて、もっとしゃべりたくなる。そう、これこそが「聞く力」というわけだ。

質問は一つだけ用意する

 インタビューを行うとなると、これを聞きたい、あれも聞きたいと欲張りたくなるのが普通だ。「アガワも最初はそうでした」。事前に準備した10とか20の質問項目に全部答えてもらうことに神経をつかいすぎて肝心なことを聞き漏らしたり、盛り上がっておもしろい話が展開されようとする芽を摘んでしまった経験がよくあったという。ある時、先輩アナウンサーの著書のなかに「インタビューするときは、質問は一つだけ用意して、出かけなさい」というアドバイスを見つけて、目から鱗が落ちたそうだ。最初の質問の答えから次の話題が生まれるかたちで会話がどんどん広がるという寸法である。

 著者は「聞く力」を磨くための35項目を挙げている。相づちの極意、フックになる言葉を探す、などなど。商談でも、売り込みたかったら相手の話をじっくり聞けと、よくいわれる。相手が気分よく話してくれるからこそ、本音がつかめる。ビジネスのコツが体得できる本である。(仁多)


『聞く力――心をひらく35のヒント』
阿川 佐和子 著 文藝春秋 刊(800円+税)
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