旅の蜃気楼
“怖いものなし”の人が経営を引き継ぐ
2012/06/14 19:47
週刊BCN 2012年06月11日vol.1435掲載
▼「先手必勝」は、上新電機の創業者で若くしてこの世を去った浄弘博光氏の座右の銘だ。土井さんは31歳の時、浄弘社長に面接で請われて中途入社し、人事労務部門を担当した。社業は順調に伸びたが、浄弘社長の没後、お家騒動が起きて、多くの人材が社外に流れ出た。つい先日、次の社長候補に指名された中嶋克彦さんもその一人だ。「いったん退社して、上新さんにお世話になるのは20年ぶり」だそうだ。
▼土井さんが言葉を次いだ。「中嶋とは縁があるんですわ。昔のことですよ。中嶋がね、女の人連れて歩いとるんですわ。たいがいは知った人間に会わんように隠れるんですけどな。そうでっしゃろ。実るばかりとは限らんさかいな。この時は逃げ場のない広い公園でしてな、顔をあわせてしもたんですわ」。中嶋さんは言う。「その女性が先立った家内でして……。巡り合わせというんですかね。私にはもう、なんにも怖いものがないんです。これからは世の中に恩返しをします」。
▼大阪の日本橋は、私にとっては仕事を覚えた最初の土地だ。当時の日本橋はとても活気があって、輝いていた。それが最近は、大阪への足が遠のくようになってしまった。訪問の時間待ちには、上新電機の近くにある、親父さん一人がやっている古ぼけた喫茶店に入ったものだ。その店も昨年なくなり、困ったなと思っていたら、今回、素敵なカフェを見つけた。「ブック&カフェ エイトハーフ」。幅広いジャンルの古本が読めて、お茶も飲めるしゃれた店だ。店を出て左手前方に、中嶋さんのいる上新電機のビルが見える。大阪の日本橋にも新しい息吹が感じられる。(BCN 社長・奥田喜久男)
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