BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本の文脈』

2012/06/07 15:27

週刊BCN 2012年06月04日vol.1434掲載

 もともとはフランス現代思想が専門だが、この10年ほど精力的に執筆活動を続け、いまや論壇を代表する思想家となった内田樹。片や人類学・宗教学を専門分野に、1980年代半ばにニューアカデミズムの旗手として颯爽と登場して以来、常に日本の状況に対して発言してきた中沢新一。本書は、この二人が東日本大震災をまたいだ3年間、8回にわたって語り合った記録である。場所を変え、時をおいての対談は、中沢の「まえがき」にある「もう前のようには、『日本的なもの』の原理を、心安らかに語っていることはできなくなった。自分を取り巻く世界の文脈の変化を正確に読み取りながら、ぼくたちは自分の原理をみずからの力で戦い取らなければ、この先永久に失ってしまう」という危機感に満ちている。

 内田の『日本辺境論』(新潮社)と通底する日本人論と日本語論、日本文化を語り合いながら、主題はグローバルと対比して細部へと入り込んでいく。「日本人は(中略)人間の本性にそった自然なかたちでシステムをつくっている」という内田の言葉が本書の陽の部分を表すのに最もふさわしいと思うのだが、いかんせん、そのシステムはガラパゴスと揶揄され、変化を余儀なくされた。それでもまだ、日本の潜在能力と先端性に可能性を見出して、対話は大震災へ、原発へと移っていく──。

 「文脈」としかいいようのない世界の広がりは、まるで論壇八艘飛び。グローバルで活躍する日本人が、地に足をつけて、大きく日本を俯瞰するのに役立つ一冊だ。(叢虎)


『日本の文脈』
内田 樹・中沢新一 著 角川書店 刊(1600円+税)
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