BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>ゼロ年代の論点 ウェブ・郊外・カルチャー

2012/03/15 15:27

週刊BCN 2012年03月12日vol.1423掲載

 冒頭、著者は「本書は2001~2010年の批評に関するガイドブックである」と記している。「ガイドブック」というのがミソで、基本的には書籍を紹介する「ブックガイド」の形式を取りながら、同時に2000年代の批評──著者は「世界と『私』について考えること」と定義している──が何をみてきたかの「ガイドブック」になっている。日本経済の「失われた10年」と重なり、あるいは最近よくいわれる「失われた20年」という表現をすれば、すっぽりこのなかに収まる時期、批評家たちは社会のどこに着目し、何を考え、どのように行動してきたのか。政治・経済をあえて排除しながら、社会を広く概観している。

 挙げられた書籍は、分野でいうと、批評総論に加えてネット、紙と電子書籍、サブカルチャー寄りのカルチャー、変わりゆく日本の風景──の18冊ということになるが、分野にはあまり意味がない。個々の書籍よりも、批評のなかで言及される人と書籍の連鎖が極めて大きな広がりをもち、さらに“まとめ”に相当する各章末の一文によって、その広がりは分野の枠を軽々と越えていくからだ。例えば「情報環境と自由、コミュニケーション」では、米国同時多発テロ事件が日本の論壇に与えた影響を、酒井隆史、東浩紀、大澤真幸、鈴木謙介、北田暁大、濱野智史などを挙げながら、淡々と、流れとして捉えている。

 この膨大なアーカイブのなかから読者が何をピックアップするのか、非常に興味深い。現代を生きる人なら、本書のどこかに必ずフックがあるだろうから。(叢虎)


『ゼロ年代の論点 ウェブ・郊外・カルチャー』
円堂 都司昭 著 ソフトバンク クリエイティブ 刊(730円+税)
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