BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『歴史学者 経営の難問を解く』

2012/03/08 15:27

週刊BCN 2012年03月05日vol.1422掲載

 昭和の時代、大学の史学科を志すわが子に「歴史じゃメシ食えないぞ」と水を差す親は少なくなかった。誰もが網野善彦や色川大吉のように活躍できるわけではないという親心かもしれないが、いやいやどうして「歴史学」はきちんと世の中のお役に立っている、というお手本がこの一冊だ。著者の専門は、自身が提唱者でもある応用経営史。これまでの経営史が、産業や企業の歴史とリーダーの人物像などを描いて、「さあ、ここから学びなさい」と、専ら学ぼうとする者の理解力や創造性をあてにしていたのに対して、応用経営史は一歩踏み込んで、「必要とされている日本経済や日本企業の改革に対して、他のアプローチでは見出しえないような実行プランを提示する」までを役割とする。

 本書は、著者の近年の論文や雑誌発表原稿をまとめたもの。東日本大震災後の新原稿や旧原稿への加筆補正を行っている。将来に向けて提示される内容は具体的で示唆に富み、説得力をもつ。その理由の一つが、章のタイトルに結論を明示している点。電力産業史を研究領域の一つとする著者入魂の「原子力発電への依存から脱却できる」「電力業は体制改革が可能だ」「石油産業は競争力を強化できる」をはじめ、化学、金融、不動産、日本的経営、地域経済、地球温暖化、そしてプロ野球まで、歴史から学ぶ再生への処方箋を明確に述べている。現代経営学の分析手法を採り入れているのでいささか難解な箇所はあるが、挑戦する価値大。昭和は遠くなりにけり、だ。(叢虎)


『歴史学者 経営の難問を解く』
橘川 武郎 著 日本経済新聞出版社 刊(1900円+税)
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