BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『さよなら! 僕らのソニー』
2011/12/22 15:27
週刊BCN 2011年12月19日vol.1412掲載
不振には相応の理由があるだろう。本書は、長年取材者として、ファンとしてソニーを見守り続けてきた著者による「諌言と愛の告白」だ。技術と革新によって業績を伸ばし、巨大化する企業を描きながら、その過程で経営陣が看過してきたものを鋭くえぐっている。
失われたものは何か。東京通信工業としての設立から4年後、井深大が社長に就き、以後、盛田昭夫、岩間和夫、大賀典雄らがつくってきた「ものづくり企業」としてのDNA。そこから生まれたトリニトロンやベータなどの技術とヒット製品。市場の声に耳を傾けてきたマーケティング。そして何よりも、ブランド……。
著者は、ソニーを「過去の成功体験や教訓に『解』を求めない。(中略)自分の目で見つめる未来の中に『解』を求めてきた会社」と評している。市場のないところに市場をつくってきた会社なのだ。そして、「早すぎた」といわれたPDA「クリエ」を惜しむのである。さらに、ある幹部に「HDD内蔵テレビをなぜ出さないのか」と問いかけたときに返ってきた「機が熟していない」という言葉に慄然とするのである。ソニーとは、こんな会社だったろうかと。著者が「さよなら!」と決別を告げているのは「ソニー」ではない。その相手も、再生への処方箋も、この書のなかにある。(叢虎)
『さよなら! 僕らのソニー』
立石泰則 著 文藝春秋 刊(830円+税)
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