BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「本屋」は死なない』

2011/11/24 15:27

週刊BCN 2011年11月21日vol.1408掲載

 「オリンピックの年には、みんながテレビにかじりつくから、本が売れなくなる」と、ある出版社のお偉いさんが言っていた。「だから、今度のバルセロナ五輪が終われば、書店にお客さんが戻ってくるはずだ」とも。あれから20年が経っても、出版界は不況を脱する気配がない。

 紙の本を商売の糧とし、流通の下流を担う書店の状況はもっと悲惨だ。急激な環境変化で零細な本屋さんがどんどん消滅している。

 今回取り上げる新刊本は、“どっこい、本屋は生きている”という事実を、取材を重ねてレポートしたものだ。

 登場する書店(人)は、8人。いずれも、書籍にこだわりをもち、個性的な棚づくり(品揃え)をしている。経歴も多彩だ。序章と終章に登場するのは、パルコブックセンター(後のリブロ)の店員から、紆余曲折を経て「ひぐらし文庫」という小さな書店を開業した原田真弓。

 「情熱を捨てられずに始める小さな本屋。それが全国に千店できたら、世の中は変わる」──彼女は、こんな理想を掲げて、商店街の一角に店を構えたのだ。

 人口わずか100人ほどの和歌山県の過疎の村で、神社の境内などで「本の読み聞かせ」を続ける「イハラ・ハートショップ」の井原万見子。「本屋の、あるかもしれない未来をもう一度つくるのは、人間ひとりひとり」と断じる、鳥取県は「定有堂書店」の奈良敏行。こういう人たちが本屋を営んでいるかぎり、日本の文化はきちんと守られるという気がする。(止水)


『「本屋」は死なない』
石橋毅史 著 新潮社 刊(1700円+税)
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