BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『つぎはぎ仏教入門』

2011/11/02 15:27

週刊BCN 2011年10月31日vol.1405掲載

 呉智英が仏教本? と思われる向きは多かろう。長年、辛口の評論活動を展開してきた著者も年貢の納めどきか、と開いてみればさにあらず。仏教徒ではなく、哲学としての仏教を専門的に学んだわけでもない著者ではあるが、日本人の生活に深く溶け込んでいる仏教が、思想として、文化として極めて重要であると考え、さらに「現代社会の欠陥を仏教こそが克服しうる」と認識したことが、本書を記させた。単なる入門書ではなく、いわば日本仏教再生への提言になっている一冊だ。

 著者の案内は、仏教の宗祖である釈迦は弟子たちに何を説いたのか、という原理的な問いから始まる。時を経るにしたがって、さまざまな宗派の開祖が釈迦の教えの上に自らの解釈や思想をトッピングしていったことで、仏教は本来の釈迦の思想・哲学から大きく逸脱してしまった。「覚り」に至った宗祖の言葉を取り戻すことが、日本の仏教を再生させるきっかけになる。その釈迦の言葉、すなわち金口直説とは、「縁起」「輪廻からの解脱」「諸行無常、諸法無我」「不苦不楽の中道」。著者はこの意味を経典を「つぎはぎ」していくことで明らかにしながら、仏教の骨格部分を説いていく。

 最後には、現代日本仏教界への提言を記しながら、「ロジカルな噛みつき屋」の本領を発揮している。それは、凡百の「葬式仏教」に代表される批判とは一線を画する。葬式仏教、大いに結構、むしろ、それにさえなりえていない現状に問題があると看破している。本当の「仏教」に「入門」できる好著だ。(叢虎)


『つぎはぎ仏教入門』
呉智英 著 筑摩書房刊(1400円+税)
  • 1

関連記事

「五色」と「五大」に宇宙を想う

韓国のお寺で目にした「五体投地」