旅の蜃気楼

抗日意識がリマインドされる日

2011/10/13 19:47

週刊BCN 2011年10月10日vol.1402掲載

【旅順発】旅順口(港)を訪ねた翌日は、9月18日。朝、旅順の街中でサイレンが鳴った。何が起きたのか、わからない。9時18分に鳴ったような気もする。サイレンの音を聞いて、昔の記憶が蘇ってきた。1979年、初めてソウルを訪ねたときのことだ。あの日も同じようなサイレンが街中に鳴り響いた。当時の韓国は戒厳令下であったから、部屋から出ないようにと、訪問先の三星電子の人から事前に注意を受けていた。

▼あのときに似ているな、と思いながら一日が過ぎて、夜のテレビニュースを見ると、「本日は満州事変の80周年にあたる」というようなことを言っている。事変の勃発は奉天(現在の瀋陽)にある柳条湖で起きた鉄道爆破に始まる。このテレビニュースはローカル放送ではなく、全国版らしい。つまりは、中国全土で抗日意識がリマインドされる日なのだ。日本には戦争を題材にした抗中意識を促す活動はない。だから歴史に関する日本と中国の人々の知識と意識には温度差がある。その違いを学ぶとともに、意識の相反があるという事実を認めることが大切だ。現実の中国と向き合うには、相手のルールで活動することが前提になるのだから。

▼ここで大きな障壁が立ちはだかる。すでに中国で活動している人はこの違いを理解していても、日本で経営の意思決定を行う人たちがわかっていないということだ。中国事業の展開における最大の課題は、日本の“井の中の蛙”の人たちに、中国にも“井の中の蛙”がいることを一人でも多く、一日も早く腑に落としてもらうことだ。

▼旅順から帰った翌週に十和田湖を訪ねた。帰途は青森に抜けるルートを選んだ。八甲田山から見下ろす陸奥湾は右手がまさかりの形をして、海を抱え込んでいる。先週号で触れたように、旅順口はすごく美しい。だが、陸奥湾もそれに負けず劣らず美しい。(BCN社長・奥田喜久男)

旅順口を見下ろす白玉山の塔。かつては日露戦争で亡くなった人の納骨堂でもあった
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