BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本企業にいま大切なこと』

2011/09/15 15:27

週刊BCN 2011年09月12日vol.1398掲載

 ひと言でいえば、「アメリカ流の経営では日本企業の発展は望めない。日本式経営に回帰せよ」という論旨を展開する経営書である。

 近年、多くの企業が合理性、論理性、効率性を重視するアメリカ型の経営手法を取り入れてきた。その結果、法律家や会計士が企業内で大きな発言力を得ている。そうした側面について、野中郁次郎氏はこう喝破する。「私はときどき、彼らが何か付加価値を生み出しているのだろうか、と疑問に思うことがあります。膨大な報酬を受け取りながら、彼らはじつのところ、人々の知恵を逓減させているだけではないか、と」。

 中国の長江商学院というビジネススクールで講義を行った遠藤功氏は、学生からこう指摘された。「アメリカのビジネススクールの先生はみな、最後は決まって『株主価値を最大化しろ』しか言わない。しかしあなたはそう言わない」。中国の人たちも欧米的な思考や価値観に違和感を抱き、日本企業が大切にする価値観の話をすると非常に共感を覚えてくれるそうだ。

 日本流マネジメントの真髄は「現場力」にあるというのが両氏の共通した見解だ。資本と経営が分離したアメリカ型ではこの力は生まれない。物流を担うヤマト運輸、佐川急便は、震災後たった2週間で、一部を除いて集配サービスを復旧させた。原発事故の対応にしても、「フクシマ50」と呼ばれる現場の人々の命をかけた勇気と努力が輝いた。「政治を含めて、中央はもっとしっかりしろ」と叱る声が聞こえてきそうだ。(止水)


『日本企業にいま大切なこと』
野中郁次郎/遠藤功 著 PHP研究所刊 (720円+税)
  • 1