BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『復興の精神』

2011/09/01 15:27

週刊BCN 2011年08月29日vol.1396掲載

 あの日、被災地の人々は寒さに打ち震えていた。夏がきて、今度は灼熱地獄にさらされている被災者たちの姿を見聞きするにつけ、「あの人たちのつらさを思えば、自分はもっと我慢しなければ」と考える多くの日本人がいる。

 ここで取り上げる『復興の精神』は、被災者の悲しみや苦痛を自らのものと感じながらも「震災後」の日本人の精神のあり方を論じる9氏の見解を紹介するものである。

 養老孟司氏は、「伊勢神宮には式年遷宮というならわしがあります。二十年に一度、古いものを壊して、同じものを作るのです。自分が作ったものが白紙にされてしまったら、それを作り直そうという本能のようなものを人間は持っているように思います」と述べる。日本は日常的に「ご破算」を経験している。だからこそ、復興する力があるというわけだ。

 脳科学者の茂木健一郎氏はこう論じる、「よく言えば、過去を振り返らずに、未来に向き合う力があることになる。一方で、刹那的だという欠点もある。日本人は、災害によってすべてが無に帰するかもしれないということを前提に、永遠を考える」。

 終末期医療に取り組む大井玄氏は、「日本人はプロメテウス(不死身)だ」と断じ、(大震災の意義は)この国に生まれたことを誇りに思い、同胞である日本人に強い愛情を抱いていることを再発見したことである──と結論づける。

 この本のすべてを紹介するほどの紙幅はないが、日本人の矜持を再確認することができるのは確かだ。(止水)


『復興の精神』
養老孟司、茂木健一郎、山内昌之、南直哉、大井玄、橋本治、瀬戸内寂聴、曽野綾子、阿川弘之  著 新潮社刊(700円+税)
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