旅の蜃気楼

「地下のパルテノン神殿」を見た!

2011/07/28 15:38

週刊BCN 2011年07月25日vol.1392掲載

【春日部発】水滴は石に穴をあける力をもっている。たった一滴の力だが、連続すると破壊力をもつ。この水が大量に押し寄せた時の恐怖を私たちは東日本大震災で目の当たりにした。最初に水害の怖さを体験したのは伊勢湾台風だ。10歳、小学校4年生の時の9月26日だ。暴風雨が一昼夜に及んだ記憶がある。

▼ピークの時には木造の家中が雨漏りだらけで、鍋、ヤカン、洗面器などが総動員であった。風の勢いが強くて、釘で打ち付けた雨戸が吹き飛ばされそうになる。5人家族が総出で風と闘った。それぞれが役割を果たし、恐怖の台風に立ち向かったこの時の結束力は、子どもながらに力強く感じた。

▼家が吹き飛んだら神社の境内に逃げようと、落ち合う場所まで決めた。靴を履いて座敷の上を忙しく走り回ったのが非日常の出来事なので、緊張しながらもウキウキと心が騒いだ。翌日、風雨がおさまって家の外に出たら、神社の樹が倒れて境内一面が樹木の山になっていた。長良川は氾濫し、堤防付近の家は一階が水面下にあった。この時に水の破壊力を意識した。

▼埼玉県春日部市に、水害から街を護る「首都圏外郭放水路」がある。国道16号線の綾瀬川から中川の間にある四つの川の水を直径10m、延長6.3kmのパイプの中に取り込んで貯水し、溢れた水を江戸川に放水する仕組みだ。国土交通省、県、市そして市民の結束で実現した。春日部市の江戸川近辺の地域は低平地になっていて、大雨が降った際には水害がつきものであった。11年前に部分開通し、成果をあげている。そこを訪ねた。見所は地下22mにある巨大な空間だ。“地下のパルテノン神殿”と呼ばれている。気温は地上が30℃でも、地下なら17℃だ。市民の結束力が街を護っている。酷暑の今の時期、ここは別天地だ。(BCN社長・奥田喜久男)

この広大な“神殿”が市民を水害から護ってくれる
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