▼「なでしこ」に「奥ゆかしき日本女性」のイメージは影も形もなかった。あったのは、小柄な彼女らが、体格に雲泥の差がある相手に立ち向かって陣地を奪い、得点を稼ぐ姿だ。サッカーの女子W杯ドイツ大会で、日本女子代表が優勝した。日本中が沸き、大震災の被災地にも勇気を与えた。

▼男子サッカーはW杯に何度も出場し、日本中を熱狂の渦に巻き込んだ。だが、女子サッカーが脚光を浴びることは少なかった。「なでしこ」の愛称は、日本サッカー協会の女性スタッフが公募を提案して決まった。オーストラリア女子代表が国民歌（ワルチング・マチルダ）にちなんでつけた「Matildas（マチルダス）」という愛称を参考に認知度を高めたのだ。

▼キャプテンで大会MVPにも輝いた澤穂希選手が、チームメイトに告げた言葉が忘れられない。「苦しかったら私の背中を見ろ」。15歳で日本代表に選ばれ、苦難を乗り越え32歳で頂点に立とうとしている。それまでに経験した道程をみて、どの選手も自らを奮い立たせたことだろう。

▼大震災後の日本。自らを律して復興の指揮を執っている人物はいるだろうか。残念ながら、見当たらない。（吾）