旅の蜃気楼

天災が教えてくれる“人のやさしさ”

2011/04/28 15:38

週刊BCN 2011年04月25日vol.1380掲載

【北京発】これが柳絮なんだ。北京の街中に、ふわふわした綿毛状のものが風に舞い、あちこちに飛び交っている。柳絮とは、白い綿毛にくるまれた柳の種だ。北京の人は自慢げに説明してくれる。風流な眺めではあるが、現地の人との話題はどうしても東日本大震災に移ることとなる。4月13日からの3泊4日でいろいろな人に会って、話を聞いた。

▼中国の人たちは、地震があった当初は、我慢強い日本人被災者たちに感動した。やがて災害報道が福島原発に集中し始めた。いつまでもはっきりしない状況報告に、不信感を募らせる。日本政府と東電への批判は日増しに高まってきている。中国でも、東日本大震災の報道は連日続いている。ここで錯覚が起きる。日本中が放射能に汚染されている、メイドインジャパンの製品は汚染されていると、懸念が拡大する。こうした連鎖反応は、かつて日本でも起きている。中国の反日デモの報道に対して、一部の事実なのに中国全体がそうなんだと錯覚する。これはお互いが気をつけなくてはならない。

▼北京南駅から天津まで新幹線に乗って移動した。30分で着く。時速330kmは速い。駅に到着して降りようとしたら、前の席の人が立って私を睨みつけた。明らかに私を日本人として睨みつけている。中国で久しぶりに感じた視線だ。地震は天災だが、事故の対応のまずさは人災だ。人は誰も、人災には厳しい。帰国した翌日、ハイパーマーケティング社長の谷正行さんとゴルフ場で会った。「物資を持って被災地へお見舞いに行ってきました。被災が大きくなるに従って皆さんがやさしくなるんですよ。人はすべてをなくすと無の境地になるんでしょうか」と、谷さん。つらいけれど、天災は時として、人のやさしさを教えてくれるのかもしれない。(BCN社長・奥田喜久男)

福島原発の事故がレベル7に引き上げられたニュースは中国でも大きく報じられた
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