旅の蜃気楼

銀座に賑わいが戻るのを待ちわびて

2011/04/14 15:38

週刊BCN 2011年04月11日vol.1378掲載

【内神田発】銀座から中国人観光客の姿が消えた。いつになったら中国語が飛び交う賑やかな街に戻るのだろうか。震災と津波に遭った東北地方の状況はもっと悲惨だ。工場が壊滅した加工食品会社の社長は、それでも雇用を守りたいと、国の助成制度を活用して従業員の給料を確保した。別のある企業では、社員寮が高台にあって被災を免れたものの、難を逃れた中国人研修生を泣く泣く帰国させた。「社長さんの会社でずっと働きたい」と涙顔で訴える研修生の思いと、「必ず再起するから、戻っておいで」と諭す社長の決意がひしひしと伝わってきた。

▼振り返れば、昨年の秋頃にも銀座の中国人観光客の数が減った。尖閣諸島での巡視艇と漁船衝突による領土問題の影響だった。だが、この時には日中双方の思惑が働いて、年末年始には中国人観光客が戻ってきた。ところが、今回は原発事故による放射能汚染が大きな問題となっている。これは、領土問題のような交渉事ではない。生命に関わるだけに深刻だ。安全・安心な日本を取り戻そう。全国民が一日も早い解決を望んでいる。その危険な現場で復旧作業に取り組んでおられる方々とそのご家族に思いを馳せると、何とも切ない。ただひたすらに頭が下がる。

▼人類の発展は、技術開発と切っても切り離せない。開発そのものは交渉事ではないが、科学技術の人類への利用は人々の話し合いから生まれ、納得ずくで進む。原子力とどうつき合っていくのか。人々は話し合い、科学者は開発に立ち向かうわけだが、電力の利用者自身もまた、目に見えない脅威に立ち向かうチャレンジャーである。いま私自身に何ができるのか。もし何かがあった時、東京から立ち退く最後の一人になる、と覚悟している。(BCN社長・奥田喜久男)

華やかなはずの通りは、心なしか閑散としている
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